ダイヤモンドの設計者と研磨者

皆さんこんにちは!ブリッジ銀座アントワープブリリアントギャラリーです。

今日はダイヤモンドのデザイナー(設計者)と研磨者(カッター・ポリシャー)について書いてみます。ダイヤモンドは思い付きでカットしている訳では在りません。実はダイヤモンドの原石は加工される前にどんな形に加工するのが最も経済的か?を中心に様々な議論を重ねてから加工されます。それはレーザースキャンの技術が向上してきた1990年以降で大きく変化しました。

【デザイナーとポリシャー】は【建築士と大工さん】

ダイヤモンドに設計と言う概念が加わったのは1900年頃からです。ブリリアントカットの開発者ジュール・マザラン(考案されたマザランカットはヴィンセント・ペルッチによって研磨されたものが有名)や光学理論を持ち込んだヘンリーDモースもダイヤモンドの設計と研磨(建築師と加工)を兼務していました。1900年頃まではダイヤモンドの加工作業を分業するほどの量が産出していなかったからなのです。この頃までにダイヤモンドに係わって歴史に登場する人たちは例外なく各部門のTOPであり、経済的のも(政治力も有る場合が多いです。)作業分野においても大きな力を持っており、世界最高の技術も同時に持ち合わせて居た様な人たちです。ダイヤモンドは年間平均40カラットしか発見されなかったのです。その為、その加工となると一部の特権階級に責任は一任する他なかったと考えられます。

建築士は建築現場の視察をして作業進捗が設計図通りかどうか?を確認します。ダイヤモンドの加工でもデザイナーはダイヤモンドの加工進捗が設計通りに進んでいるのか?は常に注視しているのです。

逆に1900年以降はアフリカで一時鉱床が発見されたことを受けて、安定して大量のダイヤモンドが供給されてきますので、その加工や設計も分業して行う必要が出てきたのです。最初に専業でダイヤモンドを設計者したのは数学者だった”マルセル・トルコフスキー氏”であると考えられています。トルコフスキー氏の設計したダイヤモンドを加工した職人は氏の従兄弟で当時世界最高の技術を持つとされた天才グリーパー”ラザール・キャプラン氏”です。1930年頃の話ではトルコフスキー氏とキャプラン氏などの設計者と作業者を分業するケースはそこ迄多くは在りませんでした。プリンセスカットの原型となった1970年のクァドリリオン等も設計者でダイヤモンド加工にも長けたイスラエル・イツコウイッツ氏が行っています。しかし、これらのダイヤモンドも最初の1ピースは設計者が行って、ノウハウが解明されると、それ以降は一般の作業者に作業させるのが一般的です。

その後1980年にはGIAによってラウンドブリリアントの最高グレード”エクセレント”が設計されました。このカットを最初に達成したダイヤモンド研磨師はベルギー・アントワープの”フィリッペンス・ベルト氏”でした。ベルト氏の所属するサイトホルダーはラウンドブリリアントの他にもアントワープ・ブリリアントや様々な花の模様が専用スコープで除いた時に見えるカットを設計しており、フィリッペンス・ベルト氏はその殆どの研磨を担当しています。ベルト氏は数学者では在りませんのでダイヤモンドの設計は出来ません。しかし類稀な研磨の才能を持っており、設計図の通りにダイヤモンドを仕上げる事が出来るのです。

2018年にデビアスが発表したトリプルエクセレントのプリンセスカットも”フィリッペンス・ベルト氏”の手で研磨されました。このように光学理論を用いてダイヤモンドの設計をする必要が無かった1990年までは”一人親方的”なダイヤモンド設計者と作業者が同一と言うパターンは決して珍しくは無かったのです。

2020年現在ダイヤモンド加工の現場では、プランニングデパートと呼ばれるダイヤモンド設計部署をそれぞれのサイトホルダーが持っており、プランニングデパートで保有するダイヤモンド原石をどんな形に研磨仕上げするのか?を決めています。1990年以降に急速に発達したレーザー技術を使うとダイヤモンドはへき開を利用してグリーピングする必要もなくなり、むしろレーザーで加工すれば原石のロスは少なく、効率よくダイヤモンド原石を活かせる事が判ったのです。上の写真でもグリーピングを使って青い色のダイヤモンドを取り出すと、グリーピングによって中心以外は大きなダメージを受けてしまい緑と黄色のダイヤモンドを取り出すことは出来ません。ダイヤモンドの成長線がそれを許さないのです。上写真の原石はレーザー技術を使うと大きなメイン1石、中くらい1石、小さい1石の合計3石を取り出せますが、劈開を使ったグリーピング技術で取り出すと大きな一つだけしか取り出せないのです。

話は戻りますが、こうした既存の形のダイヤモンドを原石からどう取り出すか?の設計図を書く仕事は現在AIによって行われており、一つの原石で有効な仕上げパターンは100以上が瞬時に提示されます。その中から最も効率よくダイヤモンドを取り出す方法を原石を所有するサイトホルダー(所有者)が決定して、レーザー技術を使ってダイヤモンドをカットして、最終的に研磨師の元へ送られて研磨仕上げを施して仕上げられるのです。

既存のフォルムはAIで新しいカットは設計者がダイヤモンドのフォルムとファセットの数やそれぞれの角度を独自にデザインして決めていきます。新しく開発されるフォルムのダイヤモンドは細心の光学理論で研究して作り出されるのです。

※以前ベルト氏のアトリエを訪問した際にH&Cスコープで覗き込んだら”百合の紋章”が見えるダイヤモンドを開発していました。(百合の紋章はフランク王国、フランスの元となった王国の紋章でヨーロッパでは人気の模様)大変面白いカットでしたが、ベルト氏曰く「面白いけど輝かないね」でした。確かにダイヤモンドはスコープを覗き込みながら身に着けるものでは在りませんので、実際の外観、1ct以下の小粒サイズでは輝いているかどうか?はとっても重要なポイントなのです。百合の紋章の見えるダイヤモンドは今のところ販売されていないようです。

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