ダイヤモンドカッター(DiamondCutter)

ダイヤモンドをクリービング(へき開・切断)する職人

ダイヤモンド・カッター(Diamond Cutter)はダイヤモンド切断業の職人を指す業界用語、カットする職人なので日本では”カッター”と呼ぶことが多いが正しくは”クリーバー”と言います。これはダイヤモンドをクリービング(へき開・切断)するから来ています。クリーバーは専門用語。レーザースキャクニングが発達していなかった1980年代まではダイヤモンド原石をクリービングする事は 本当に経験値を積んでダイヤモンドの成長線を見極める事が出来る熟練の職人だけに許された仕事のひとつだったのです。
有名なダイヤモンドカッターと言えば”カットの魔術師”と言われたラザール・キャプラン(1884~1986)カリナンをカットしたジョセフ・アッシャー等が挙げられます。主にダイヤモンドカッターが活躍した1900年代は研磨できる形にダイヤモンドを割る(カットする)必要があったのです。超硬素材で未知の部分が多かったダイヤモンドを割る(カットする)作業に 原石の所有者が仕上がりの良し悪しに保険をかけるほどの時代でした。
また、実際にへき開してダイヤモンドを割ってみなければ 最終的にどんな仕上がりになるのか?が不明だった為 カット失敗によって本来の引き出す事が出来たはずの美しさや価値を発揮しないまま砕けてしまったダイヤモンド原石も多く存在するのです。その為、歴史的なサイスのダイヤモンド原石が見つかった場合には、大粒ダイヤモンド・クリービング(カット)で実績のあるダイヤモンド加工業者が選定されることが多かったようです。

ダイヤモンドの原石はカットプランを立てて加工される

歴史的なダイヤモンド発見、原石から宝石へ

20世紀初頭は世界最大級のダイヤモンドが発見された場合、ダイヤモンド原石の販売終了までに得られるかもしれない利益に対して投資家たちがシンジゲートを組みました。中にはダイヤモンド原石の価値を高める目的で一旦万博や博覧会などで展示 お披露目して最大級のダイヤモンド原石の価値を世間に開示した例なども有ります。その後、必要に応じてオークションやテンダーが開催され原石のオーナーを再度決定します。ダイヤモンド原石はカット研磨の方法・趣向で最終形が大きく異なります。大きな原石を所有するという事はそれだけの選択肢を持つ事が出来るステータスだったのです。
歴史的なダイヤモンドの多くは王室や王族などの贈り物とされた歴史があります。仮に王族が購入検討する場合は議会でダイヤモンドを国家予算で買い上げるかを議会で議論したりしました。そうして原石所有者が決定されると、この原石をどんな形のダイヤモンドに仕上げるのか?カットプランの選定に移ります。前述のとおりダイヤモンド原石は、そのままでは美しさがありませんので、カット研磨してダイヤモンドと言う宝石に加工する必要があるのです。
ヘンリー D モース(Henry D Morse)この原石の段階では最終的にどのような価値のダイヤモンドになるのか?は不明です。当然予定通りにカットできない場合に価値は大きく損なわれる可能性もあるからです。またその予想も僅かな経験や小さなウインドウから覗き込んで内部を確認して導き出される予想だったため、不確定な要素も多かったのです。
原石所有者は複数の専門家の意見を参考に価値を鑑定してカットプランを立てます。次に原石所有者は計画通りにダイヤモンドを”へき開・クリービング出来る技術を持つクリーバーを指名します。この時指名されたクリーバーは もしも失敗すれば名声を失う為、たとえ単純な作業であっても慎重に仕事を受けるかどうかを判断していたようです。
そうしてカッター(クリーバー)が決定すると、所有者とクリーバーの間で協議してカット手数料を決めます。ここでもカットの成功不成功に保険がかけられることがしばしばあったようです。最終的にダイヤモンドクリーバー(カッター)が指名されてカットプランを実行、ダイヤモンド原石を裁断し宝石に加工したのです。クリービングされて小さいサイズにカットされたダイヤモンド原石はそれぞれに仕上げられて宝石となったのです。
単純作業であってもグレインラインの読み違いや見間違い、ダイヤモンドを割る場合の力加減などで成功不成功が決まり、しかも最悪の場合思わぬ方向に割れて 原石の価値を大きく下げてしまう事も有るクリービング作業。1回勝負のクリービングは大変な集中力を必要とし大きなプレッシャーのかかる作業です。往年のダイヤモンドカッター達にかかった精神的な重圧は計り知れません、それだけに現在までに成し遂げられ、世界的な価値を発揮するダイヤモンドとして仕上げられ 歴史的な宝石となったダイヤモンドを作り出す作業は尊敬されるものであり、本当の偉業なのです。

ダイヤモンドカットの現在

現在のダイヤモンドカットはレーザースキャニングの技術が進み事前に原石からどんなダイヤモンドをどう取り出す事が出来るか?が複数パターンでシミュレーション出来るため。そこに保険がかけられたりしません、原石所有者はもっとも市場性の高いカット方法を選択すれば良いからです。しかもクリービングが人の手で熟練の技で行うよりも機械で確実に行う方が的確で正確なためにクリービングで保険が発生する事も有りません。残念なことに特別なクリーバーを指名する必要は無くなったのです。
この事についてベルギーダイヤモンド研磨の第一人者”ピータ・ボンベケ”氏はダイヤモンドクリーバーの自由な発想を奪いダイヤモンド原石からもたらされる宝石としてのダイヤモンドと所有者との感動的な出会いの機会を失わせていると発言するほどです。

1990年以降、ダイヤモンド原石はレーザー技術でカットするため、作業者としてカッターは不要となった

現在では大きな原石があった場合に一つの大きなダイヤモンドを切り出すのか?小さな幾つかを切り出すのか?それとも複数の中程度のダイヤモンドを切り出すのか?をプランニングデパートなどで会議して予定通りにカット研磨する事が出来るようになったのです。ダイヤモンドカッターと言う職業がクリエイティブな領域から作業的な領域へ技術の進歩によって変化してしまったのです。しかし現在でもダイヤモンドを磨くポリッシャーだけは機械よりも繊細な人の手の感覚が必要とされ目視で微細な誤差を調整する事が求められています。
現在ダイヤモンドカッターはポリッシュする職人の事を指す言葉となっており、ひと昔前とは作業内容も要求される技術の高さも全く異なるのです。

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