AGL基準
AGL基準(エージーエルきじゅん)
AGLは日本の宝石鑑別団体協議会の事です。1990年代国内で販売されるダイヤモンドにはカットグレードが在りませんでした。国柄的にも各付けやスペック、マトリックスが大好きな日本のマーケットではダイヤモンドを3Cグレードで各付けして販売するスタイルは機能し、お客様にも受け入れられていきました。しかし3C評価基準は重さ、色、透明度の三項目で現在の様な4C、4項目では在りませんでした。4つ目のCであるカットグレードが決まっていなかなったのです。そこで一般社団法人宝石鑑別団体協議会(AGL)は世界に先駆けてダイヤモンドを4C評価にするべきだと考えていました。ダイヤモンドは2004年にGIAによってカットグレードにエクセレントを加えて5段階評価とするガイドラインが決まるまでの20年間、日本国内向けのダイヤモンドは世界に先駆けて鑑定鑑別団体協議会AGLによって独自のカットグレードを採用していたのです。
1994年6月にAGLは日本国内の鑑定鑑別機関で鑑定されるダイヤモンドにカットグレードを設定しました。
▲2017年発行のデビアスグループIIDGRのダイヤモンドグレーディングレポート
AGL基準のエクセレントカット
AGLの構成メンバーには当然ですがGIAの鑑定資格保有者が多かった為、カットグレード制定時に参考にしたのはGIAのダイヤモンド教育の資料だったのです。GIAの教科書では1980年までマルセル・トルコフスキー氏のアイディアルカットが理想的な形状として取り上げられていました。1980年に不完全性が完全に指摘されて以降教科書からは除外されているのですが、日本ではその限りでは在りませんでした。その為AGLではマルセル・トルコフスキー氏のダイヤモンドデザイン案を参考にカットグレードを設定したのです。1994年に制定されたAGL基準ダイヤモンドカットグレードでは①エクセレント②ベリーグッド③グッド④フェア⑤プアの5段階評価で格付けしました。マルセル・トルコフスキー氏のアイディアルカットと言う名称は商標権が有ったためにAGLでは直前に発表されていたGIAの最高グレードの名前をそのまま採用して最高グレードをエクセレントとしたのです。AGLのカットグレードは各プロポーション要素に一定の範囲を設けて、それらの項目が設定範囲に収まるかどうか?の割合を判定する条件合致方式の評価法でした。
一部マルセルトルコフスキー氏考案のアイディアルカットについて”エクセレントの中でも最上級”と形容する資料等を見かけますが、これは現在のGIA基準では機能しません。GIAではエクセレントカットを決定する際にそれ迄のラウンドブリリアントカットを全てモディファイテッド・ラウンドブリリアントカットと定義しました。これにより58面エクセレントカットがカットグレードの基準となり、それまでに開発されたラウンドブリリアントカット(トルコフスキー理論含む)は全て基準外のカットと定義されたのです。GIAの動きとは逆にAGL基準では当然のように本家本元のアイディアルカットを基にカット基準を決定した為にアイディアルカットが最高グレードにランク付けされないわけにはいかなかったのです。
1988年にGIAがエクセレントを発表、現行のGIA方式ではマルセル・トルコフスキー氏のダイヤモンドデザイン案を1980年には教科書からも外しており、1988年には独自のエクセレント理論を発表していました。しかしGIAはすぐさまダイヤモンドの評価基準にカットを加えませんでした。カットグレードの導入には慎重だったのです。それはダイヤモンドの評価基準は希少性と価格に直結してしまう為、美しさの評価と勘違いされるカットグレードの導入を誤解が無い様に導入する必要が有り、それに対して慎重に進めていたのです。GIAではカラーグレードもアルファベット順に表記しDからスタートします。これは単純にA・B・Cがその文字の持つイメージがそのままグレードと勘違いされる事を避けての事でした。カラーグレードは希少性の単位であり、美しさの単位では無いのです。光の色はそこ迄単純ではないのです。そういう意味では日本のマーケットは完全にカットグレードが高いイコール美しいダイヤモンドと勘違いしているところが有ると言われています。
ダイヤモンドの4Cは日本だけ?
1994年のAGLによるカットグレード導入は日本国内の需要に押されての事でした。世界に先駆けたこの動きは日本の宝石鑑定鑑別の歴史においてもとっても重要な出来事でした。世界的に採用されているGIAダイヤモンド鑑定書は3C、しかし国内のCGL中央宝石研究所や今は無き全国宝石学協会発行のダイヤモンド鑑定書は4Cと ダブルスタンダードだったのです。しかし日本国内では日本がこの分野では先行していると考える識者が多かったのです。実際バブル期における日本のダイヤモンド売り上げは世界有数で、世界の需要供給のバランスをも左右する大きなマーケットへと成長していました。ダイヤモンド業界に対する日本の影響力は高かったのです。その為、カットグレード採用も日本主導で行えました。そのモデルとなったマルセル・トルコフスキー氏のダイヤモンドデザイン案は発表された1919年から75年も時間が経過しており、GIAでは採用されていないにもかかわらず日本国内で再び脚光を浴びたのです。その為この時業界で携わっていた関係者の間では間違った計算であったにもかかわらずマルセル・トルコフスキー氏を現代ダイヤモンドのカットグレードを計算した偉大な人物であると称える傾向が有ります。(※実際にマルセル・トルコフスキー氏は偉大な人物です。)
そしてGIAがカットグレードを2004年に発表2006年に導入します。GIAのカットグレードはAGLのような条件合致方式ではなく、光学シミュレーションと官能評価を融合させた新しい評価法でした。しかしグレード標記は①エクセレント②ベリーグッド③グッド④フェア⑤プアと表面上の見た目はAGL方式と大差なかった為にGIAのカットグレードでもマルセル・トルコフスキー氏のデザイン案を基礎に作られたと勘違いする業界関係者が多かったのです。(日本国内ではジュエリーコーディネータ検定の教科書などにもAGLの功績としてマルセル・トルコフスキー氏を大きく紹介しています。)しかし実際にはGIAのエクセレントカットではマルセル・トルコフスキー氏のデザイン案からの脱却が最初の重要事項だった為に現在GIAのWebサイト内でカットグレードのコラムや記事でマルセル・トルコフスキー氏の名前はほとんど出てきません。エクセレントカットの考案者はGIAなのです。
マルセル・トルコフスキー氏が日本で異常に有名な訳はAGLによって94年にカットグレード選定の基準とされたからと言うのが主な理由です。現在のGIA基準ではマルセル・トルコフスキー氏のアイディアルカットは最高評価エクセレント(EX)とは成らず、1つ下のベリーグッド(光学的に理想的)の判定を獲得します。