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よくある質問

ベルト氏はダイヤモンドのデザイナーですか?

アントワープブリリアントの専属研磨師”フィリッペンス・ベルト氏”はダイヤモンドのデザインを行いません。ダイヤモンドのデザインはダイヤモンドの光学特性を研究し研磨角度を厳格に数値化できる設計師(ダイヤモンドデザイナー)が行います。現代のダイヤモンドは”その形が他とは変わっている”とか”見た事の無い面数である”だけでは市場に受け入れられません。現在までに多くの多面カットや多面体ダイヤモンドが登場しては消えていっているのです。アントワープブリリアントカットの息をのむような美しさは計算されて導き出されているのです。思い付きでダイヤモンドを加工してもダメという事ですね。

世界最高峰のダイヤモンド加工者ポリシャーのベルト氏が磨き上げた奇跡の輝き

ダイヤモンドには光学特性を理解してダイヤモンドを設計するデザイナーと、デザイナーの思う通りに実際にダイヤモンドを研磨仕上げする職人とがいます。フィリッペンス・ベルト氏は研磨仕上げの職人なのです。ブリッジ銀座アントワープブリリアントギャラリーで展開するアントワープブリリアントカットやトリプルエクセレントのプリンセス、もっというとエクセレントカットにも設計者は別に居られます。

フィリッペンス・ベルト氏はダイヤモンドカッター(切断者)では在りません。ベルト氏はダイヤモンドのポリシャー(研磨者)です。このFAQでは混同されがちなダイヤモンドのカットとポリッシュ、設計と作業について書いてみます。

【デザイナーとポリシャー】は【建築士と大工さん】

ダイヤモンドに設計と言う概念が加わったのは1600年頃からです。ブリリアントカットの開発者ジュール・マザランはダイヤモンドの輝きを引き出すためにブリリアントファセットを開発しました。さらに1850年には”カール・ツァイス”の光学理論を持ち込んだヘンリーDモース等がいますが、彼らは中でも稀な存在です。と言うのも1900年頃までダイヤモンドは 加工作業を分業するほどの量が産出していなかったからなのです。貴重な地下資源であるダイヤモンドは原石の形を活かして仕上げるのが一般的でしたので、そこには光学理論が入り込む余地が在りませんでした。その為、現存するマザランカットを見てみると設計図の通り仕上げる事が出来れば相当の輝きに成ったであろう事は想像できても、理想と現実では大きくかけ離れた仕上がりとなってしまいます。(※思うようにダイヤモンドを仕上げる事が出来る高動力の加工機材がかなったことも大きな原因です。)

この時代、超希少素材のダイヤモンドでは建築師と加工作業をひとりの人間が兼務する事が一般的だったのです。

因みにアフリカでダイヤモンドの採掘がはじまる1880年頃までにダイヤモンドに係わって歴史に登場する人たちは例外なく各部門のTOPであり、経済的にも(政治力も有る場合が多いです。)作業分野においても大きな力を持っており、世界最高の技術も同時に持ち合わせて居た様な人たちです。ダイヤモンドは年間平均40カラットしか発見されていなかったのです。その為、ダイヤモンドの加工となると一部の特権階級に責任は一任する他なかったと考えられます。

建築士は建築現場の視察をして作業進捗が設計図通りかどうか?を確認します。ダイヤモンドの加工でもデザイナーはダイヤモンドの加工進捗が設計通りに進んでいるのか?は常に注視しているのです。

逆に1900年以降はアフリカで1次鉱床が発見されたことを受けて、安定して大量のダイヤモンドが供給されてきますので、その加工や設計も分業して行う必要が出てきたのです。最初に専業でダイヤモンドを設計者したのは数学者だった”マルセル・トルコフスキー氏”であると考えられています。トルコフスキー氏の設計したダイヤモンドを加工した職人は氏の従兄弟で当時世界最高の技術を持つとされた天才グリーパー”ラザール・キャプラン氏”です。彼らが活躍した1930年頃からトルコフスキー氏とキャプラン氏のように設計者と作業者を分業するケースが流行し業界に浸透していきました。プリンセスカットの原型となった1970年のクァドリリオン等も設計者でダイヤモンド加工にも長けたイスラエル・イツコウイッツ氏が行っています。これらのダイヤモンドも最初の1ピースは設計者が行って、ノウハウが解明されると、それ以降は一般の作業者に作業させるのが一般的です。

その後1980年にはGIAによってラウンドブリリアントの最高グレード”エクセレント”が設計されました。このカットを最初に達成したダイヤモンド研磨師はベルギー・アントワープの”フィリッペンス・ベルト氏”でした。ベルト氏の所属するサイトホルダーはラウンドブリリアントの他にもアントワープ・ブリリアントや専用スコープで覗き込むとサクラなど様々な花の模様が見えるカットを設計しており、フィリッペンス・ベルト氏はその殆どの研磨を担当しています。ベルト氏は数学者では在りませんのでダイヤモンドの設計は出来ません。しかし類稀な研磨の才能を持っており、設計図の通りにダイヤモンドを仕上げる事が出来るのです。

レーザー技術で飛躍的に向上したダイヤモンド加工のノウハウ

2018年にデビアスが発表したトリプルエクセレントのプリンセスカットも”フィリッペンス・ベルト氏”の手で研磨されました。このように光学理論を用いてダイヤモンドの設計をする必要が無かった1900年代前半頃までは”一人親方的”なダイヤモンド設計者と作業者が同一と言うパターンは決して珍しくは無かったのです。

1990年以降ダイヤモンドの加工設計はレーザー技術で飛躍的に向上した

2020年現在ダイヤモンド加工の現場では、プランニングデパートと呼ばれるダイヤモンド設計部署をそれぞれのサイトホルダーが持っており、プランニングデパートで保有するダイヤモンド原石をどんな形に研磨仕上げするのか?を決めています。プランニングデパートの責任者は例外なく光学理論に精通してダイヤモンドの設計について豊富な知識を持つ専門家が割り当てられます。

また1990年以降に急速に発達したレーザー技術を使うとダイヤモンドはへき開を利用してグリーピングする必要もなくなり、むしろレーザーで加工すれば原石のロスは少なく、効率よくダイヤモンド原石を活かせる事が判ったのです。上の写真でもグリーピングを使って青い色のダイヤモンドを取り出すと、グリーピングによって中心以外は大きなダメージを受けてしまい緑と黄色のダイヤモンドを取り出すことは出来ません。ダイヤモンドの成長線がそれを許さないのです。上写真の原石はレーザー技術を使うと大きなメイン1石、中くらい1石、小さい1石の合計3石を取り出せますが、劈開を使ったグリーピング技術で取り出すと大きな一つだけしか取り出せないのです。

話は戻りますが、こうした既存の形のダイヤモンドを原石からどう取り出すか?の設計図を書く仕事は現在AIによって行われており、一つの原石で有効な仕上げパターンは100以上が瞬時に提示されます。その中から最も効率よくダイヤモンドを取り出す方法を原石を所有するサイトホルダー(所有者)のプランニングデパートで決定して、レーザー技術を使ってダイヤモンドをカットして切断します。切断されたダイヤモンドは最終的に研磨師の元へ送られて研磨仕上げを施して仕上げられるのです。多面体や新型のダイヤモンドを開発する場合は通常とは別の作業ラインをつくり研究用のダイヤモンド原石を使って行われています。プロトタイプと量産で作業ラインが変化するのも他の工業製品と同様です。

ダイヤモンドは貴重な地下資源です。2020年現在、世界中で採掘可能な鉱山はほぼすべて稼働しており、現在の採掘技術では50年後には採算が合わなくなり採掘終了している予定の鉱山が殆どです。ダイヤモンドは近い将来枯渇する事が決まっている貴重な資源なのでこんなに慎重に加工しているのです。

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