ダイヤモンドのカットと研磨の歴史
厳選に厳選を重ねたアントワープブリリアントのダイヤモンド原石は、ベルギーアントワープの研磨師”フィリッペンス・ベルト氏”の元へ送られ研磨されます。
フィリッペンス・ベルト氏は、1477年、ブルゴーニュ公国から続く「ダイヤモンドをダイヤモンドで磨く」革新的な研磨法のスピリッツを受け継ぐダイヤモンドカッターの一人。1990年にそれまで不可能とされていたエクセレントカットを研磨した確かな技術を持つ第一人者です。
ダイヤモンドの美しさは、「原石とカッター」で決まります。同じダイヤモンドの原石でも、カット次第で「輝き」や「価値」が大きく変わります。
では、ダイヤモンドの研磨の歴史は、どのように進化してきたのでしょうか?
今日は、そのカットと研磨の歴史を振り返ってみたいと思います!
ダイヤモンドの美しさに重要な研磨の歴史は「ダイヤモンドをダイヤモンドで磨く」という方法が発見された1300年代から始まります。
一般にダイヤモンド加工の歴史はダイヤモンド固有の超硬素材であり脆いという極めて稀な特性の為、他の宝石とは比較にならない特殊な問題を解決していく歴史でもありました。
ダイヤモンドカットの歴史で重要な人物
1 ルドウィック・ヴァン・ベルケム(1400年代)
2 ヴィンセント・ペルッチ(1600年代)
3 マルセル・トルコフスキー(1919年)
4 フィリッペンス・ベルト(1990年)
1 ルドウィック・ヴァン・ベルケム
1400年代、ベルケムによって発明された※ソーイング・ブレードや※スカイフによりダイヤモンドに直線的で平らな面を研磨できるようになります。ソーイング・ブレードは現在もダイヤモンドの研磨の現場で用いられています。その活躍によりダイヤモンドの研磨技術は飛躍的に進化していきます。
※ソーイングとは、八面結晶のダイヤモンドを二分割する際に使う技術のことで、一個のダイヤモンド原石を中央で二分割して(センターソーイング)二個取りにする場合に使用します。
※スカイフとは、ダイヤモンドを研磨する機械。鋳鉄でできた円盤を高速で回転させ、そこにフラックス材に混ぜたダイヤモンドの粉末パウダーを少しずつ塗りこみます。高速回転するスカイフに、ダイヤモンド原石をドップに固定した状態でファセット一面一面を押し当てて石の表面を磨いていく方法です。
2 ヴィンセント・ペルッチ
1600年代、マゼランカット、ダブルカット、そして、※トリプルカットとダイヤモンド原石の劈開を見抜き、研磨可能なファセットを開発した17世紀最高の研磨の魔術師がペルッチです。17世紀後半にはディスパージョン(研磨済みダイヤモンドの輝きの形容詞。ダイヤモンドの内部に入射した光が屈折反射した虹色の輝き)とブリリアンス(研磨済みダイヤモンドの輝きの種類のうち”ダイヤモンド全体の輝き”の事。)に注目した様々なカットが登場しました。
※トリプルカットオールドマインカットとも呼ばれる)このカットはブルーティングという新しい技術を駆使して正面から見たダイヤモンドの輪郭を丸く仕上げていて、現在のブリリアントカットの原型になっていると言われています。
3 マルセル・トルコフスキー
1919年、ダイヤモンドの内部の光がどの様な経路を通っているのかを計算した科学者マルセル・トルコフスキーはペルッチの開発したトリプルカットを理想的な角度で研磨することを提唱したラウンドブリリアントカットを発表しました。マルセルトルコフスキーが自身の著書「ダイヤモンドデザイン」の中で発表したこの設計図は2次元でダイヤモンド内部の光の進路を計算してあり、特にカイトファセットやスターファセットからの光が入射した場合などが記載されておらず不完全だったのです。しかし、その考え方は多くのダイヤモンド開発者の基礎となり、その後ダイヤモンド業界内で修正と検証が繰り返され1988年に現在のエクセレントカットの素案が※GIAによって決定されました。
※GIAとは、Gemological Institute of Americaの略称です。ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ。米国カリフォルニア州のカールスバッドに本校を構える世界的な宝石学教育機関と鑑別・鑑定機関、更に鑑定に関する研究を行っている研究所。「米国宝石学会」GIAの宝石鑑定資格保有者をGIAGGと呼びます。
4 フィリッペンス・ベルト
1990年、フィリッペンス・ベルト率いるTOPチームが世界で初めてエクセレントカットの研磨を成功させました。誰もが追い求めた「ダイヤモンドを究極的に輝かせること」はベルギー・アントワープの研磨職人フィリッペンス・ベルトによって対に完成され、その後自身が技術指導して世界へ広がっていきます。93年にベルトはハートアンドキューピットも完成させ、ダイヤモンド研磨におけるスタンダードを確立しました。
1990年当時エクセレントカットの研磨が極端に難しい中、フィリッペンス・ベルト(philippens herbert)は次々とエクセレントカット研磨に成功したベルト氏は、その後世界各国で技術指導するなどダイヤモンド業界内でエクセレントカットのスタンダード化に貢献していきます。またエクセレントカットのダイヤモンドを多く仕上げる中で、不思議な模様ハートアンドキューピッドが浮かび上がることが分かってきました。当初別の名前でプロモーションされていましたが、商標の問題で現在はハートアンドキューピッドと呼ばれとても高い人気を誇ります。フィリッペンス・ベルトはその発見から開発にも携わります。エクセレントカット達成の3年後の1993年にはハートアンドキューピッドパターンを完成させます。
Heart & Cupid ハートアンドキューピッド
フィリッペンスベルト氏らの手で1993年に開発され高いダイヤモンドの研磨技術が求められる研磨方法で研磨されたダイヤモンドに見える光の模様。ラウンドブリリアントカットのダイヤモンドをパビリオン側から専用のスコープでのぞき込むと8個のハートマーク、テーブル側からのぞき込むと8本のアローパターンが確認できる。プロポーションとシンメトリーの優れたダイヤモンドに出現する模様。
ダイヤモンドのカットグレードの内シンメトリー(対称性)が特に優れていれば、G.I.A.カットグレードがエクセレント以下のベリーグットでも、クラウンとパビリオンのファセットの先端が一致している事や、複数存在する同種のファセットの形が合同一致している状況であれば実はハートアンドキューピッドパターンは出現することが分かっています。
終わりに・・・
2006年GIAによるカットグレードがついに導入されラウンドブリリアントカットのダイヤモンドにおいて最高位のカットはトリプルエクセレントとなりました。トリプルとは①カットの総合評価、②表面の研磨状態ポリッシュ、③研磨済みダイヤモンドの対称性の3項目の評価が全て最高のエクセレントの場合、そのダイヤモンドをトリプルエクセレントカットと呼びます。
ダイヤモンドの輝きはブリリアンス(全体の輝き)、ディスパージョン(光の分散)、シンチレーション(鏡面反射)の3要素で構成されています。この3要素のバランスがダイヤモンドの輝きを決めていて、そのうちどのバランスをもって最高品位とするかをGIAが定めています。世界的な宝石学教育機関と鑑別・鑑定機関が認めたエクセレントカット、そして、ハート&キューピッドを作り出したフィリッペンス・ベルト氏。現在もダイヤモンドを磨き続けている世界最高のマスターカッターであることは、間違いありません。
始めにお伝えしたようにダイヤモンドの美しさは、「原石とカッター」で決まります。
ぜひ、世界最高品質の原石と世界最高カッターが作り出すアントワープブリリアントのダイヤモンドの美しさを見に来ていただきたいと思います。