サファイアの約束
第一章 プロポーズの夜
東京の夜景が一望できるレストランのテラス席。秋の涼やかな風が吹き抜ける中、片岡翔は緊張した面持ちでワイングラスを手に取った。
目の前には、三年の時を共に過ごしてきた恋人、長谷川莉奈。ワインのグラスを傾けながら、少し頬を赤らめている。
「翔、どうしたの? なんか、緊張してる?」
莉奈が首をかしげる。その仕草すら愛おしく、翔は思わず笑みをこぼした。
「いや……実は、今日は特別な日なんだ」
彼はジャケットの内ポケットに忍ばせていた小さな箱を取り出した。目の前でそっと開くと、中には深い青が美しいサファイアの指輪が輝いていた。
「莉奈、俺と結婚してくれないか?」
莉奈の目が大きく見開かれる。驚きと喜びが入り混じった表情のまま、彼女は指輪を見つめた。
「……サファイア?」
「そう。お前の誕生石だろ? 強い絆を象徴する石でもあるって聞いて、これしかないって思ったんだ」
莉奈の瞳に涙が浮かぶ。言葉にならない感情が胸の奥から込み上げてくる。
「……うん。よろしくお願いします」
彼女が微笑みながらそう言った瞬間、翔の胸の奥がじんわりと温かくなった。小さな箱から指輪を取り出し、そっと莉奈の左手薬指にはめる。
サファイアの青が、東京の夜景よりも美しく輝いた。
第二章 婚約の日々
プロポーズから数ヶ月が経ち、二人の生活は穏やかで幸せなものになった。
翔は埼玉の一人暮らしのマンションを整理し、都内での新居探しを始めた。一方、莉奈はアパレルブランドの本部勤務になり、忙しい日々を送っていた。
仕事の合間を縫って、二人は結婚式場の見学に行ったり、新居のインテリアを考えたりと、未来の準備に胸を躍らせた。
そんなある日、翔がふと呟いた。
「結婚したら、もっと旅行にも行けるな」
「うん! ハネムーンは絶対ヨーロッパに行きたい!」
莉奈は目を輝かせる。二人の共通の趣味は旅行だった。付き合い始めてから、国内外問わず様々な場所を訪れてきた。
「じゃあ、新婚旅行はイタリアにしようか。フィレンツェとか、サファイアの産地の一つらしいし」
「え、本当に!? なんだか運命みたい」
翔は莉奈の手を取り、指輪にそっと触れる。
「これからも、ずっと一緒に旅をしよう」
莉奈は微笑み、翔の手をぎゅっと握り返した。
二人の新しい旅は、まだ始まったばかりだった。
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