これは運命?
大也は銀座のブリッジを出ると、思わずポケットの中にある購入証明書をぎゅっと握りしめた。思いがけず期待以上の買い物ができたことに、嬉しさと安心感が入り混じる。まさか自分がこんなにすんなりと決断できるとは思っていなかった。銀座の街を抜け、電車を乗り継いで帰宅する道すがら、大也は改めて瑞樹の顔を思い浮かべる。「きっと喜んでくれるよな……。」そう呟きながら、満員電車の窓に映る自分の顔がどこか自信に満ちていることに気がついた。
家に到着し、スーツのジャケットを脱ぎながらスマホを確認すると、着信が一件入っていた。茜からだった。特に気にも留めず、ソファに腰掛けると、すぐに再びスマホが鳴り響いた。
「……もしもし?」
「ちょっとあんた、何か隠し事してるでしょ?」
電話に出るなり、茜の強めの口調が耳に飛び込んできた。何事かと驚いたが、大也には思い当たる節がなかった。
開口一番、茜の強い口調に大也は身構えた。
「え? いや、何のこと?」
「は? とぼけないでよ。あんた今日、どこ行った?」
「どこって……銀座……」
「隠し事?何のこと?」
「シラを切る気? もしかして……ブリッジに行ったんじゃない?」
「え? なんでそれを……?」
「やっぱり! あやか(古田)から連絡きたのよ! 今日、偶然お店に来たお客さんが、私が紹介しようとしてた“大也くん”本人だったって!」
「ちょーびっくりしたwって言ってたよ!ねえ、大也くん、私が前に『古田を紹介する』って言ったの、覚えてる?」
「……え?」
一瞬、言葉が出なかった。
「……あ。」
ようやく大也は思い出した。確かに茜から『古田あやかっていう友達がブリッジ銀座にいるから紹介する』と言われていた。
「ちょ、待って。まさか……」
「そう、まさかよ! あんたが今日行ったブリッジ銀座、そこで担当したのが私の友達の古田だったのよ!」
「ええっ!? うそだろ!?」
大也は思わず立ち上がった。
大也の頭の中で、古田の熱心な接客や、ダイヤモンドの意味を語る姿がよみがえった。まさかそれが茜の友人だったとは……。
「すげぇ偶然……いや、これ運命ってやつか?」
「運命かどうかは知らないけど、私が紹介しようとしてたお店で、しかも担当したのが古田って、ちょっとすごくない?」
「確かに……あの人、めちゃくちゃ熱心に説明してくれてさ。正直、途中まで買うつもりなかったんだけど、話を聞いてたら『ここで買わなきゃ!』って思ったんだよな。」
大也はものすごい偶然の重なりに少し鳥肌が立つ想いだった。そういえば、前に茜が「紹介したい人がいる」と言っていた。それがジュエリーショップのスタッフ、古田あやかだったのだ。すっかり忘れていたことと、何よりも偶然にもその店を訪れ、彼女に接客されていたことに驚きを隠せなかった。
「マジか……まさかそんな偶然があるなんて……。」
「ほんとよ! 私が紹介する前に勝手に行って、しかも勝手に買っちゃうなんて、ほんっと信じられない!」
「いや、そんなつもりじゃなかったんだよ。でも、結果的にはすごくいい買い物ができたと思う。」
「でしょ? だから言ったじゃん、古田の話を聞けば考えが固まるかもって。彼女、サプライズプロポーズとかも得意だから、一回相談してみなよ。」
「……サプライズプロポーズ?」
「そう! あんた、どうせ普通に渡そうと思ってたんでしょ?」
「いや、まぁ……」
「だったら一回、古田に相談してみなって! 絶対いい案出してくれるから。」
茜の提案に、大也は少し考え込んだ。瑞樹が本当に喜んでくれるプロポーズにしたいという気持ちはある。でも、どんなサプライズがいいのか、具体的にはまだ考えていなかった。ここはプロの意見を聞いてみるのもアリかもしれない。
「……わかった。じゃあ、今度ブリッジ銀座に行くから茜も一緒に来てよ。」
「順番なんか変だけど、まぁ、よし! じゃあ日程はまた決めよう!」
そう言って電話を切った大也は、改めて自分の手の中の購入証明書を見つめた。これが瑞樹との未来の第一歩になる。そう考えると、胸が高鳴るのを感じた。
その時、もう一度スマホが鳴った。画面を見ると、山本からの着信だった。
「今日は急にいなくなってごめんな。」
「ああ、気にすんなよ。彼女、どうだった?」
「ちょっと急に熱発したみたいだったけど今は落ち着いた。で、お前はどうだった?」
「……それがさ、すごい偶然が重なって、結局ダイヤモンド買っちまったよ。」
「マジで? どこで?」
「ブリッジ銀座ってとこ。」
「おお! それは良かったな! で、もうちょっと詳しく教えろよ」
「実はな……。」
大也は今日の出来事をかいつまんで話した。山本は笑いながら「それ、完全に運命じゃん!」と驚いた様子だった。
「まぁな……。でも、本当にここまで来たら、あとはプロポーズを成功させるだけだよな。」
「うん、プロポーズ頑張れよ! 俺も応援してる。」
「……なぁ、山本。プロポーズにサプライズって、やっぱり必要かな?」
「大也お前はどう思う? 瑞樹さんなら、どうされたいんだろうな?」
山本の言葉に、大也は少し考え込んだ。確かに、自分の気持ちだけではなく、瑞樹がどう感じるかが大事だ。プロポーズは二人にとって特別な瞬間。驚きよりも、しっかりと想いが伝わることが大事なのかもしれない。
「……そうだな。そこも考えないとな。」
「まぁ、茜が言うように、プロに相談するのもアリかもな。」
「そうだな、まずは話を聞いてみるよ。」
山本との会話を終えた大也は、改めて心を引き締めた。瑞樹のために、最高のプロポーズを成功させる。そう心に誓いながら、購入証明書をそっと机の引き出しにしまった。
登場人物:大越大也(おおこしだいや)埼玉県大宮市出身の30歳、趣味はドライブと釣り、行動力が有り何事もまずはやってみるタイプ。
松本瑞樹(まつもとみずき)神奈川県出身29歳、高校時代は名門野球部のマネージャーだったお姫様キャラ。慎重派でよく考えてから行動するタイプ。
瑞樹の友人の茜(あかね)29歳、瑞樹とは高校時代からの地元の友人で気心が知れている。大也とも面識が有り
茜の友人古田あやか(ふるたあやか)茜の大学時代の友人、ブリッジ銀座のスタッフでJJA公認ジュエリーコーディネーター年間100組以上のサプライズプロポーズをプロデュースしている。
山本健司(やまもとけんじ)大也の会社で同期の同僚、同期の中でいち早く結婚に踏み切った。お相手は高校時代からの彼女。
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