皆さんこんにちは!ブリッジ銀座アントワープブリリアントギャラリーです。
今日はダイヤモンドの話です。紀元前7世紀からインドで珍重されて紀元50年頃には古代ローマの”大プリニウス”をして”地上で最も価値の高い宝石”と言わしめたダイヤモンド。他の文献では”プリニウスは胡瓜(きゅうり)の種ほどのダイヤモンドですら珍重している”とルビーやサファイヤとの比較で書かれたものも有るほどです。アフリカでダイヤモンドが発見される1860年代までの人類の歴史では全部で10万カラットのダイヤモンドが見つかっています。1ct=0.2グラムですので、有史以来2300年で20キロのダイヤモンドしか見つからなかったのです。一年間に約40ctのダイヤモンドしか見つかりませんので、それはそれは貴重な品だったと考えられます。それに対して、赤い宝石は全てルビー青い宝石は全てサファイヤと思われていましたのでダイヤモンドの希少性は宝石類の中でも群を抜いていたことは確かです。
今でこそダイヤモンドは6面8面12面の等軸状の基本的な原石形が有る事が判っていますが、古代ローマの人々やインドの人々がその事を知っていたわけではありませんでした。その為ダイヤモンドは原石形が看破できないまま劈開しようとすると、結晶方向が思う方向とは異なるために【思わぬ方向に砕ける】事に成ってしまいます。1700年代にブラジルでダイヤモンドが発見されるまでダイヤモンドはインドが唯一の産地でした。インドではムガール帝国ではダイヤモンドをカースト(身分)を現す物として使っていましたので、整った原石をインド国外へ持ち出すことは非常に困難でした。
その為、いわゆる低品質な原石だけがインドから輸出されていました。密輸を除くと等軸状の綺麗な結晶はインド解体までインド国外へ持ち出されることは在りませんでした。1400年頃盛んにヨーロッパへ輸出された原石は”マクル”と呼ばれる双晶のダイヤモンド原石でした。マクルは通常等軸状であるはずのダイヤモンド原石が平べったい長方形、若しくは三角形の錐(すい)の形状で産出します。双晶の為、加工は困難を極めインドでは低品質なため国外へ輸出しても良い原石と言う扱いだったのです。
それを輸入したヨーロッパでは等軸状結晶を手にすることは出来ませんでしたので、このマクルこそ最高品質のダイヤモンド原石と言えたのです。その為1477年ローズカットを開発した世界初のダイヤモンドデザイナーブルゴーニュの”ルドヴィック・ベルケム”の開発したダイヤモンド研磨機”スカイフ”で加工されたのもマクルだったと考えられています。
時のブルゴーニュ公”シャルル”は自身の経済を支える世界的な港町ブルージュとアントワープで世界中の交易品を手にしたと言われています。その中でインドからもたらされるダイヤモンドは最も高価な宝石でした。シャルルはダイヤモンドこそ力の象徴と考えてこれを自身も好んで身に着けたそうです。彼のダイヤモンドに対する執着は大きくブルージュの硝子ギルドの職人だったベルケムに時たま手に入るダイヤモンドの加工を依頼します。ダイヤモンドは硬すぎるために加工法が判らず原産地のインドでは原石のままリングにセットして使っていました。しかしシャルルはルビーやサファイヤの様にファセット面を付ける事が出来ればダイヤモンドが輝くと思いベルケムに無理難題を押し付けたのです。
そこでベルケムは古来よりインドでダイヤモンドを砕いて粉にして油に溶いた研磨剤でダイヤモンドを磨く方法に着目します。当時はダイヤモンドの研磨パウダーを動物の皮などにしみ込ませて、ダイヤモンドをその皮で擦って磨くというとっても原始的な方法でした。しかしその方法ではダイヤモンドを1㎜磨くのに1年くらいの膨大な時間がかかってしまいます。ベルケムは鋼鉄の研磨版を作り出し、その上にダイヤモンドパウダーを塗り込んでダイヤモンドを磨いたのです。しかしその方法はあまり効率的とはいえませんでした。鋼鉄よりも硬度の高いダイヤモンドを研磨材としているために研磨版の方が先に削れてしまうのです。試行錯誤の末でに鋼鉄の研磨版を回転させながら研磨する方法を編み出したベルケム。
シャルルのオーダーを無事成功させて多額の報酬を得たと言います。
マクルは基本的に平べったい形をしていますので上写真の様な平べったい仕上がりで表面反射を楽しむダイヤモンドとして重宝されたのです。マクルを使った19世紀の頃のリングには写真をマクルの裏に貼ってリングにした物や様々な工夫を凝らしてダイヤモンドを楽しんでいた事を連想させる品物が多くあります。
因みにダイヤモンドが8面結晶だった場合、双晶面は正三角形に交わり合う事になり、原石の形も三角形に成ります。6面だった場合は長方形のマクルとなって出現します。ローズカットのダイアグラムをよく見てもらうとファセット面が三角形な事も気が付くと思います。ダイヤモンドの研磨可能方向も原石の在り様に大きく左右されるのです。