第10話: 銀座のジュエリーショップ巡り
休日の銀座。青空が広がる中、大也は山本と待ち合わせていた。
「で、今日はどんな感じで回る?」
山本がスマホの画面を覗きながら聞く。
「いくつか絞ったんだけど、まずはこの高級店。それから手作りのジュエリーショップ。最後に、本命のBRIDGE銀座店かな。」
「ほう、ちゃんとリサーチしてるじゃん。」
「まあな。」
そう言いながらも、大也の心の中にはまだ迷いがあった。本当にダイヤモンドを贈るべきなのか、瑞樹は喜んでくれるのか。しかし、決意しなければ前に進めない。銀座の街はすでに多くの人で賑わっていた。高級ブランドのブティックが立ち並ぶこのエリアで、大也と山本はジュエリーショップ巡りを開始した。
「まずは、ここか。」
山本がスマホの画面を見ながら、一軒目の店の前で足を止めた。最初に訪れた店は、一歩入った瞬間に気圧されるほどの豪華な内装だった。シャンデリアが輝き、店員の姿勢もどこか格式ばっているし格式の高いジュエリーブランドのショーウィンドウには、まばゆい輝きを放つダイヤモンドリングが並んでいる。
「うーん、場違いじゃね?」
大也は少し尻込みした。店の中にいる客はスーツを着た男性や、上品なドレスをまとった女性ばかりで、明らかにラグジュアリーな雰囲気が漂っている。
「せっかく来たんだし、とりあえず見てみようぜ。」
山本に背中を押され、大也は意を決して店内に足を踏み入れた。
中に入ると、シャンデリアが輝き、ふかふかのカーペットが足元に心地よい。奥にはピアノの生演奏が流れ、高級ホテルのような空間が広がっていた。案内されたガラスケースには、目がくらむほどのダイヤモンドリングが並んでいる。
「いらっしゃいませ。」
「……なんか、すげえな。」
「おう、場違い感すごいぞ。」
「こちらなどいかがでしょう?」
店員が取り出したリングは、中央に大粒のダイヤモンドが輝き、両サイドにはさらに小さなダイヤがあしらわれた豪華なデザインだった。
「……すごいな。」
大也は圧倒されながらも、直感的に「自分には合わない」と思った。価格を見てさらに驚く。ゼロの数が多すぎる。
「ちょっと違うかもな。」
「だな。瑞樹さんも、こういうキラッキラしたのは好みじゃなさそうだし。」
山本も小声で言った。彼らはそっと店を後にした。
***
「いやー、最初から飛ばしすぎたな。」
ランチのために入ったカフェで、大也は苦笑した。
「まあ、いろんな店を見るのが大事だからな。次は手作り系の店だろ?」
「おう。こっちは雰囲気がガラッと変わるらしい。」
食事を済ませ、次に訪れたのはアットホームな雰囲気のジュエリー工房だった。店内には木製のテーブルが並び、職人が実際に指輪を作っている様子が見える。手作りジュエリーの工房兼ショップでカジュアル、温かみのある雰囲気で、大也は少し期待を持って店に入った。
「こういうのもありじゃね?」
山本が指輪のサンプルを手に取る。確かに温かみのある雰囲気で、クラフト感あふれる指輪が揃っていた。特別感はある。指輪の仕上がりは素朴で可愛らしいものが多いが、結婚という節目の象徴としては、何かが欠けている気がする。
「悪くはないけど……ダイヤモンドの存在感が薄いな。うーん、悪くはないけど、もうちょい本格的なやつがいいかもな。」
「確かに。結婚指輪ならこれでもいいけど、プロポーズの時にはちょっと物足りないかも。」
二人は頷き合い、最後の目的地へと向かった。
***
「じゃあ、本命行くか」
山本がスマホで地図を確認しながら言った。次の目的地は、事前に調べて気になっていたBRIDGE銀座店だった。
ダイヤモンドを先に贈り、後でデザインを選べる「ダイヤモンド&プロポーズ」のサービスがあるという点が大也の心を引いていた。
店舗の前に着いたその時——。
「ん? あ、ちょっと待て、大也」
山本のスマホが鳴り、画面を見ると彼女からの緊急メッセージが入っていた。
「悪い! 彼女が急に体調壊したみたいで、すぐ行かなきゃならん! ここから一人で大丈夫か?」
「マジか? まあ、大丈夫だけど……」
「すまん! じゃあ、また後でな!」
そう言い残し、山本は急いでタクシーを捕まえて走り去ってしまった。
大也は一人、BRIDGE銀座の入り口に立ち、深呼吸した。
「……まあ、せっかくだし、行くか」
スタッフ・古田あやかとの出会い
BRIDGE銀座のドアを開けると、落ち着いた空間に温かみのある照明が広がっていた。高級店ほど格式ばっていないが、しっかりとした品格がある。
「いらっしゃいませ!」
笑顔で迎えてくれたのは、明るい雰囲気の女性スタッフだった。大也はいったん席に通されアンケート用紙に名前などを記載して待つことに。
BRIDGE銀座のスタッフである古田あやかは、数日前に友人の茜から「今度、結婚を考えてる男友達を紹介するね」と言われていた。そのとき茜から、
「実はさ、今度そっちに行くかもしれないんだけど、私の友達の彼氏で大也って人がいるの。結婚を考えてるみたいで、ちょっと話聞いてやってくれない?」
茜からは、大也の人となりや、瑞樹との関係、そして彼が結婚に悩んでいることを事前に聞かされていた。だからこそ、入店後に大也が記入したアンケート用紙の名前を見たとき、「あれ?」と思った。「彼女のこと大好きなのに、プロポーズをどうするか迷ってるんだよね」と聞いていたため、どんな人が来るのか少し楽しみにしていた。
「この名前……まさかね。でも、茜の紹介なら事前にアポがあるはずだし……偶然かな?」
そう思いながらも、通常通りの接客を始めた。
「ダイヤモンドをお探しとのことですが、どんなシチュエーションでお考えですか?」
「実は…婚約指輪を考えてて。でも、どういうのがいいかまだよく分からなくて。」
「なるほど、それではダイヤモンドの選び方からお話ししますね。」
あやかは、婚約指輪の歴史や、ダイヤモンドの価値について説明しながら、徐々に大也に質問を投げかけた。
「彼女さんとはどれくらいお付き合いされているんですか?」
「もうすぐ三年ですね。」
「素敵ですね! どんなところに惹かれたんですか?」
「え? いや…しっかりしてるところかな。あと、支えてもらったことも多いし…。」
会話が進むうちに、あやかの中で確信が深まっていった。
(これ、絶対茜が言ってた“大也”くんだ…!)
その瞬間から、あやかの接客はより熱がこもったものになった。
「ダイヤモンドって、ただの宝石じゃないんですよ。『決意を形にするもの』なんです。」
「決意…?」
「ええ。昔から、ダイヤモンドは“永遠の愛”の象徴と言われています。だからこそ、婚約指輪に使われるんです。あなたの気持ちを、彼女に伝える手段として最適なものなんですよ。」
大也は少し考え込んだ。そんな彼の様子を見て、あやかはさらに言葉を重ねる。
「それに、最近はダイヤモンドだけを先に選んで、後から指輪のデザインを決める“ダイヤモンド&プロポーズ”のスタイルが人気なんです。迷っているなら、まずはダイヤモンドを贈るのもアリですよ?」
「ダイヤモンドだけ…?」
「はい。女性の多くは、指輪のデザインにこだわりたいものです。でも、プロポーズの瞬間には“決意”を示したいですよね? だから、まずダイヤモンドを選んで、その後一緒にデザインを決める。それが最近のトレンドなんですよ。」
大也は「なるほど」と頷いたが、まだ決断できずにいた。
「ちょっと考えてみます。」
その言葉を聞いて、古田は強引にならないように気をつけながら、静かに微笑んだ。
「決めるのはお客様ですが……私、個人的には、婚約指輪ってただのお洒落用のアクセサリーじゃないと思うんです。」
大也が顔を上げる。
「女性にとって、婚約指輪は『一生の約束』の証なんです。歴史的にも、ダイヤモンドは『決意の石』とされてきました。大切な人に贈るものだからこそ、その気持ちを形にする意味があるんです。」
「……決意の石、か。」
「それに、彼女さんが指輪をつけることで、目に見える形でお二人の絆が深まるんですよ。」
古田の言葉に、大也は何かが腑に落ちた気がした。
「……そうですよね! これにします。」
思わず口をついて出た言葉だった。
「え!?あ、ありがとうございます!」
古田は満面の笑みで応えた。
こうして、大也はついに「決意のダイヤモンド」を手にすることになった。しかし、茜に紹介された古田あやかが担当だったことには、最後まで気づかないままだった。
登場人物:大越大也(おおこしだいや)埼玉県大宮市出身の30歳、趣味はドライブと釣り、行動力が有り何事もまずはやってみるタイプ。
松本瑞樹(まつもとみずき)神奈川県出身29歳、高校時代は名門野球部のマネージャーだったお姫様キャラ。慎重派でよく考えてから行動するタイプ。
瑞樹の友人の茜(あかね)29歳、瑞樹とは高校時代からの地元の友人で気心が知れている。大也とも面識が有り
茜の友人古田あやか(ふるたあやか)茜の大学時代の友人、ブリッジ銀座のスタッフでJJA公認ジュエリーコーディネーター年間100組以上のサプライズプロポーズをプロデュースしている。
山本健司(やまもとけんじ)大也の会社で同期の同僚、同期の中でいち早く結婚に踏み切った。お相手は高校時代からの彼女。
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