皆さんこんにちは!BRIDGE銀座アントワープブリリアントギャラリーです。今日はダイヤモンドをダイヤモンドで磨くを発明した前節の偉人”ルドヴィック・バン・ベルケム氏”です。
ダイヤモンドをダイヤモンドで磨いた最初の職人ベルケム
ベルケム氏は人類史上初めてダイヤモンドを研磨したと言われる伝説の研磨師。1477年当時ブルゴーニュ公シャルル突進公のオファーでサンシー、ボーサンシー、フローレンティンを研磨したと言われます。特にフローレンティンはダイヤモンド史上初めてのシンメトリーなファセットを持つペアシェイプ。ボーサンシーは全面ローズカットのダイヤモンドでした。ローズカットは当時世界最先端の研磨技術を使って研磨されていました。
このロースカットに使用する原石は扁平な三角形ダイヤモンドの結晶で『マクル』と呼びます。当時ダイヤモンドの唯一の産地であったインドではムガール帝国によるダイヤモンド鉱山の徹底的な管理がなされていました。インドではカーストの証としてダイヤモンドを使用していたのです。希少なソーヤブルは王やその側近が、メイカブルは中流階級が、そしてニアジェムはその下の階級という風でした。ダイヤモンドを求めてヨーロッパから多くの冒険家やトレジャーハンターがインドを訪れますが、インドで正式にソーヤブルなどの形の整ったダイヤモンドを手に入れる事が出来なかったのです。したがってヨーロッパにもたらされたダイヤモンドにソーヤブル原石は無く、メイカブルからニアジェム品質のダイヤモンドが殆どでした。
インドでは形の整ったダイヤモンド原石をカンタンに劈開して輝かせていました、品質の悪いダイヤモンドは加工する事が出来なかったため身分の低い者が持っていたのです。形の綺麗ではない(原石としては低品質)ダイヤモンド原石をヨーロッパの人々は何とか輝かせようとしてダイヤモンドの加工が始まります。原産国インドではなくヨーロッパでダイヤモンドの加工が始まったのには、こうした理由があるのです。
最初ダイヤモンドは硬すぎて加工出来なかった
上写真の左下は比較的マクルに近い結晶です。マクルは通常2つの異なる結晶が何らかの理由で1つにくっついて生まれる為、双晶であることが多い。平べったい結晶のダイヤモンドの片方の面をミラー上に磨く加工で作り出されるのがローズカットです。
ローズカットではダイヤモンドの比類なき硬さに注目が集まりました。超硬素材であるダイヤモンドは研磨されることで地上に存在するどんな物質よりも強く光を跳ね返す表面仕上げが可能でした。ダイヤモンド表面に当たってキラキラ光る光は当時世界中のセレブリティを魅了したのです。
現在でもダイヤモンドの輝きの要素として重要視されるポリッシュは500年以上前に考案されて人類の手で成し遂げられたのです!
ローズカットを施したベルケムの代表作がボーサンシーです。ボーサンシーを当時世界で誰にもできない加工技術を付けって仕上げたベルケムのダイヤモンド研磨報酬としてなんと3,000ダカットを受けて取っています。1ダカットはベニスで発行された純金の金貨です。重さ約3.5gですから3,000ダカットはざっと純金10,500gです。金1グラム2018年現在約5,000円とすると・・ざっと5,250万円!!すごい大金です。いつの時代も特別な世界でたった一人しか出来ないようなことをやってのけると言う事はものすごい事なんですね。・・・・それにしても10キロもの金塊を持ち歩くのは大変だったでしょうね。
2012年ボーサンシーはスイスの老舗オークションハウス「サザビーズ」で競売にかけられ904万2500スイスフランで落札されました。サザビーズはこのダイヤを「今まで競売に掛けられた中で最も魅惑的でロマンチックな宝石」と説明しました、またサザビーズの会長は「あなたが購入するのは単なるダイヤではなく、歴史的芸術品なのです」とコメントを残しています。
ベルケムのダイヤモンド物語
そんなベルケムにまつわる言い伝えで、ベルケム自身が婚約したいと願った女性に求婚したときのエピソードが残っています。
宝石研磨師の道を志したばかりの若かりしベルケムは研磨師の親方(師匠)の娘に恋をします。そして二人はいつしか愛し合うようになりベルケムはプロポーズします。しかしまだ駆け出しだったベルケムは低い身分の家の子でした。身分が違った親方(師匠)はベルケムに”ある事”が出来たらお前を一人前と認め結婚を許すと言います。親方(師匠)は暗に無理難題を出してベルケムに娘との結婚を諦めさせようとしたのでした。そのお題とは・・・【ダイヤモンドを磨く】というものでした。当時ダイヤモンドは切断したり割ったりすり事は出来ましたが研磨して光らせる事が出来ませんでした。
そのためルビーやサファイヤに比べてもダイヤモンドの宝石としての重要度は低く宝石としても注目を集めていませんでした。そのため当時の宝石研磨と言えば色石が中心で、ダイヤモンドは石にも字を書いたりする道具として使われていたのです。ダイヤモンドを磨く、それは長年ダイヤモンドなどの宝石を取扱っていた親方(師匠)を含め名売ての研磨者にもなしえなかったことだったのです。
諦めきれないベルケムは寝る間も惜しんでダイヤモンドを磨くことに没頭します。しかし・・・数多の先人が挑んで出来なかったことが、いきなりベルケムにできるはずもありません。何年もの間 試行錯誤を繰り返し挑戦しましたが、ダイヤモンドを磨く事はどうしても出来ない!ついに投げ出してしまったベルケムは研磨しなければならないダイヤを放り出してしまいました。
その時です。
ベルケムの投げたダイヤモンドが何かに当たって火花を散らしました。「?」その火花を見逃さなかったベルケム、それまでベルケムがどんなに頑張って試行錯誤して様々挑んでもビクともしなかったダイヤモンドが火花を出した・・・何に当たったのだろうか?ベルケムが自分で投げたダイヤモンドのところまで行ってみるとそこには偶然にも別のダイヤモンドが在ったのでした。ベルケムはこの事をヒントにダイヤモンドをダイヤモンドで磨くという全く新しい研磨法を編み出し見事に親方(師匠)のダイヤモンドを磨き上げました。
ダイヤモンドはダイヤモンドによって磨かれ人間は人間でしか磨けない、実はダイヤモンドの研磨は愛の情熱によって発見されたのかもしれません。
それを見た親方(師匠)は娘との結婚を承諾し、晴れて二人は結ばれたと言いう事です。後のベルケムは大活躍し稀代の宝石研磨師へと昇り詰め幸せな結婚生活を送るのです。