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第三話:すれ違い

30日後に成功するサプライズプロポーズ:すれ違い
大越大也は、瑞樹と並んで歩きながら、ふと彼女の横顔を盗み見た。夕暮れの光が頬にやわらかく差し込み、その表情を優しく照らしている。瑞樹は何か考え込むような目をしていた。

「最近、仕事どう?」

何気ない質問だったが、大也にとっては会話の糸口だった。彼女の仕事の話を聞きながら、結婚についての考えを探るつもりだった。

「うん、まぁ忙しいけど、なんとかやってるよ。最近、新しいプロジェクトに入ったから、ちょっとバタバタしてるけど。」

「そっか、大変そうだな。」

瑞樹は軽く頷いた。彼女の口ぶりからすると、仕事は充実しているようだ。大也は、ここから自然に結婚の話題につなげられないかと考えた。

「そういえば、同期とかはもう結婚してる人もいるんじゃない?」

「うん、何人かね。結婚した人もいるし、子どもがいる人もいる。でも、私の周りはまだ仕事に集中してる人が多いかな。」

「へぇ、そうなんだ。」

言葉を選びながら、さらに踏み込むべきか迷った。その一瞬の躊躇が、彼女の表情の変化を見逃す原因になった。

「大也は?」

「え?」

「大也は、結婚とか、どう考えてるの?」

瑞樹がまっすぐ大也を見つめた。その瞳の奥にある意図を測りかねて、大也は曖昧な笑みを浮かべた。

その瞬間、以前二人で観た韓国映画『ラブ・アゲイン 二度目のプロポーズ』のシーンが脳裏によみがえった。仕事に夢中で妻を顧みなかった男が、離婚後に元妻への愛に気付き、必死にアプローチし直すコメディ映画だった。瑞樹が「こんな風にやり直せるっていいよね」と言って笑っていたのを覚えている。あれは映画だから成立する話だ。現実は、もっと難しい。

(俺は……映画の主人公みたいに、何度でもやり直せるなんて楽観的には思えない。だからこそ、ちゃんと考えたいんだよな……)

「まぁ、いずれはしたいと思ってるよ。でも、タイミングとか、いろいろあるしな。」

「タイミングね……。」

瑞樹は視線を前に戻した。大也の心臓が少しだけ跳ねる。何か、彼女の期待に沿わなかったのだろうか。

「私、結婚ってタイミングだけじゃないと思うんだよね。」

「うん?」

「もちろん、仕事とか生活とか、いろんな要素はあるけど、最終的には『この人と一緒にいたい』っていう気持ちが一番大事なんじゃないかなって。」

大也は言葉に詰まった。彼もそう思っている。でも、だからこそ慎重になっていた。

「それはそうだけど……でも、やっぱり現実的なことも考えないといけないし。」

「現実的なこと?」

「例えば、仕事のタイミングとか、貯金とか、住む場所とか……結婚って、気持ちだけじゃどうにもならないことも多いだろ?」

瑞樹の表情が少し曇った。何か引っかかるものがあったのかもしれない。

「じゃあ、大也は今はまだそのタイミングじゃないってこと?」

「そういうわけじゃないけど……ちゃんと考えたいっていうか。」

「ふーん……。」

瑞樹の反応が、ほんの少し冷たく感じた。大也は焦った。瑞樹を傷つけるつもりなんてなかったのに。

「瑞樹は、今すぐ結婚したいって思ってるの?」

「別に今すぐじゃなくてもいいけど……でも、大也みたいに『タイミングが』とか言われると、なんか、私はまだ結婚の対象として見られてないのかなって思っちゃうよ。」

「そんなことないよ!」

思わず声が大きくなった。瑞樹が驚いたように大也を見た。

「いや、ごめん……そういうつもりじゃなくて。」

「……うん。」

沈黙が落ちた。気まずい空気が漂う。お互いに言葉を探しているのに、うまく出てこない。

「……ごめん、変なこと言っちゃったね。」

瑞樹がふっと苦笑した。その表情が、なぜか遠く感じた。

「いや、俺こそごめん。なんか、ちゃんとうまく言えなくて。」

「大也の考えはわかったよ。」

そう言われると、逆に胸がざわついた。何をどうわかってくれたのか、確認したいのに言葉が出てこない。

大也が寂しそうに笑ったのを見て、瑞樹は胸が痛んだ。でも、その笑顔の奥に、彼が自分のことを本当に考えてくれているのを感じた。慎重になりすぎてしまうのも、それだけ大切に思ってくれているからなのかもしれない。

「……そろそろ帰ろうか。」

瑞樹は小さく息を吐き出した。少しでも、このぎこちなさを和らげたくて。

「……うん。」

大也は頷き、歩き出した。瑞樹もその後を追うように並んで歩く。少し距離があったはずなのに、彼の横顔を見ていると、今までよりもほんの少しだけ近くに感じられた。


毎週土曜日・月曜日。水曜日の23:59更新「30日後に成功するサプライズプロポーズ」ブリッジ銀座がお送りする完全フィクションのオリジナルラブストーリーです。さてどうなる大也のサプライズプロポーズ!?

第一話「休日のカフェ、揺れる想い」
第二話「秘密の準備」


登場人物:大越大也(おおこしだいや)埼玉県大宮市出身の30歳、趣味はドライブと釣り、行動力が有り何事もまずはやってみるタイプ。
松本瑞樹(まつもとみずき)神奈川県出身29歳、高校時代は名門野球部のマネージャーだったお姫様キャラ。慎重派でよく考えてから行動するタイプ。
瑞樹の友人の茜(あかね)29歳、瑞樹とは高校時代からの地元の友人で気心が知れている。大也とも面識が有り
茜の友人古田あやか(ふるたあやか)茜の大学時代の友人、JJA公認ジュエリーコーディネーター年間100組以上のサプライズプロポーズをプロデュースしている。

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