第五話:
休日の昼下がり、瑞樹は茜とともに表参道の裏通りにあるカフェにいた。カフェ好きの茜が「広告代理店勤務なら、おしゃれなカフェの一つや二つ知ってなきゃ恥ずかしいでしょ?」と言いながら選んだ店は、外観からして洗練された雰囲気を漂わせていた。瑞樹はカフェ巡りをするのは好きだったが、こうしたトレンドを意識した場所には詳しくない。
「キャラメルラテとカフェモカ、一つずつお願いします。」
茜が注文を済ませると、二人は窓際の席に腰を下ろした。
「このお店、最近人気らしいよ。インスタでもよく見るし、ここのラテアートがすごいの。前に一人で来た時に、クマの顔にしてもらったんだけど、飲むのがもったいなかったな。」
「へえ、そんなのあるんだ。確かに、カフェモカの表面、すごくきれい。」
瑞樹は運ばれてきたカフェモカを眺め、芸術的な泡のデザインに感心した。
「で、すれ違ってから連絡は?」
茜が悪戯っぽく尋ねる。
「別にそんなすれ違ってるわけではないけど、、、今日はまだないかな~。」
瑞樹がそう答えたまさにその瞬間、スマホが震えた。
『釣りのポイントに来たけど竿忘れちゃって、、、』
「ぷっ、大也らしいね! そういえば前も、私の誕生日に予約したレストランの名前忘れて店の前でオロオロしてたよね(笑)」
瑞樹は自然と笑みを浮かべながら返信した。その横で茜がスマホを覗き込み、ニヤリと笑った。
「ちょっと貸してみ?」
「えっ? ちょっと、茜?」
瑞樹が止める間もなく、茜は素早くスマホを奪い取ると、すばやく入力し送信ボタンを押した。
『どうして一人で行くの?私も連れてけ!』
「ちょっとー! 何送ってるの!?」
「いいじゃんいいじゃん! こういう時はノリでしょ!」
茜はおちゃらけながらスマホを返した。瑞樹は思わずため息をついたが、画面を見ていると、なんだかくすぐったいような気持ちになった。
このやりとりをきっかけに、瑞樹はふと考えた。
大也は普段そっけなく見えることもあるけれど、こうして何気ないメッセージをくれる。そういう不器用さも含めて、彼のことが好きなんだと、改めて思った。
カフェの窓から差し込む午後の日差しが、二人の笑顔を優しく照らしていた。
そこへ『じゃあ、次の週末、どこか一緒に行こうか!』と大也から返信。
「おっ、デートの約束成立じゃん!」
茜が瑞樹の肩を軽く叩き、からかうように笑った。
「もう、茜ったら……。」
瑞樹は少し照れながらも、心の中がじんわりと温かくなるのを感じていた。
「そうだ! 私、結婚指輪のお店で働いてる友達がいるから今度紹介するね!」
「えっ、そんな知り合いいたの?」
「うん、古田あやかっていうんだけど、めっちゃおもしろい子でね。この前もお客さんに指輪の説明してたら、自分の指にはめたまま忘れて帰りそうになったらしいよ。」
「それ、大也といい勝負じゃない?」
「でしょ!? まあ、いいお店だからさ、今度冷やかしでも行ってみない?」
「うーん……考えとく!」
瑞樹は笑いながら、少しだけ大也との未来を想像してみるのだった。
第1話「休日のカフェ、揺れる想い」
第2話「秘密の準備」
第3話「すれ違い」
第4話「休日ボッチ」
登場人物:大越大也(おおこしだいや)埼玉県大宮市出身の30歳、趣味はドライブと釣り、行動力が有り何事もまずはやってみるタイプ。
松本瑞樹(まつもとみずき)神奈川県出身29歳、高校時代は名門野球部のマネージャーだったお姫様キャラ。慎重派でよく考えてから行動するタイプ。
瑞樹の友人の茜(あかね)29歳、瑞樹とは高校時代からの地元の友人で気心が知れている。大也とも面識が有り
茜の友人古田あやか(ふるたあやか)茜の大学時代の友人、JJA公認ジュエリーコーディネーター年間100組以上のサプライズプロポーズをプロデュースしている。
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